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「みつや、ハルトモの二人がきたわよ」

「……わかったよ」

 少年らしからぬ鈍い返事をして、桜井みつやは立ち上がった。

 小学五年生、ビンビンと固い髪の毛を突っ立てて、まるでウニみたいな形の頭を元気が張り裂けそうな身体が支えている。

如何にも遊び盛りといった外見だ。丸くて小さくころころした目の上に角張った細いまゆ毛がくっついている。

唇は紅く、その奥から出る声はまだまだ甲高く、童心が傑出していた。

 しかし、今のみつやの表情はおよそ子供らしいものではなかった。どんよりと曇りきっている。

彼を待ち受けるハルトモの二人がみつやを憂鬱にさせているのである。

 

「よお、みーつや」

「おう、みつーや」

 

家の玄関の扉を開けると、二つの同じ声が異なったイントネーションでみつやのことを呼んだ。

「ハルにトモ、今日はどうした?」

 二つの同じ顔に対して、みつやはぼさぼさと話しかけた。

二つの同じ顔、ハルトモというのはみつやの家の近所に住む双子の兄弟のことだった。

 

本名は浅田朋康,漢字で書いた二人の名前の一時を合わせてハルトモという。

 

ズバリ、双子である二人の顔は同じ型でプレスされて生まれてきたかのように、そっくりそのまま同じだった。


 まだあどけないふっくりした真ん丸い頬は可愛げが存分に溢れていて、鼻なんかは手で触れたらブニッという音が
出そうなくらい柔らかそうである。唇はうっすらとした桜色で、線の細い目だってむっくりと甘ったるく垂れている。
 
 みつやも二人が周りの誰よりも可愛らしい外見をしていると認めていた。

 

ただし、それはあくまで二人が、喋らなければ、の話だった。

 

「いや、オフクロに金くれって言ったら怒られたんだよ、うちにそんな金はないって言われてな、それで、居辛くなって外に出たんだ、まったく、三万ぐらいのはした金、さっさと寄越せよな」

 

「その通りだぜ、兄ちゃん、オヤジのへそくりをくすねんだから結局かわらねーもんな、俺等」

 

「…いや、かわるんじゃないか」

 

邪気がたっぷり含まれたハルトモの会話にみつやは冷静に意見した。

ハルトモの会話は小学五年生がするにしては、常にダーティな香りが存分に漂っている。

我知らずになんの注意もなしに近付くには、少し危険だった。

また、二人の声は、みつやの甲高い声とは打って変わって、渋く、焼けていた。

みつやは既に二人のチンピラみたいな汚い会話に慣れている。

二人の言動に意思を曲げて同調したり、遠慮をして自分の考えを抑えたりすることはなかった。

 

どうせ、奴等の方が一枚上手なのだ。

 

「だって、オヤジやオフクロが三万を使うのよりも俺等の方がうまく使ってみせるもんな」

「ああ、三万で極上の世界って奴を味わってやるぜ」

 ハルトモの二人はたるんだ目を更にゆるりと吊り下げて、みつやの意見にニコニコ顔で反論する。

とても微笑ましい光景なのだが、会話の内容のせいで全てぶち壊しだった。

 一緒に会話をしていて、みつやはなんとも言えぬ気分になった。

「とりあえず、ここから移動しないか、この会話が母さんに聞かれると、その……困る」

 みつやは先手を打った。

 ハルトモをこのまま放っておいたら、三万円を最も幸せに使う方法とか、ロクでもないことを真剣に討論するに
決まっている。

この二人はいつも他人は性質の悪い冗談としか受け取らない事柄について本気で話すのである。

二人がなにを話そうと一向にみつやは構わない。だが、万が一にも、母の耳まで話が届いて、心配されるのは嫌だった。

 

「そうだな、じゃあ、いつもの林に行くか?」

「ここじゃなきゃどこでもいいよ」

「なら、決まりだな」

「とっとと行こうぜ!」

 

 ハルトモの二人が素直に賛同したので、みつやは安堵した。

ハルトモの悪行は家庭内だけに留まらない。

学校では全生徒を巻き込んだ混乱を呼び、街の中では警察が出勤するほどの騒ぎを繰り広げる。

ハルトモの二人は生きながらにして、誰彼構わず巻き込み、吹き飛ばす台風なのである。

 いつも一番でその暴風を受けるのがみつやだった。

内心で二人を迷惑だと思ったことは何度もある。

周りの人はそれを心配してくれる、が、みつやはハルトモの二人を憎んだり、嫌いになったりしたことはなかった。

雨の日のじめじめとした空気を嘆いても、空を憎むことはない。

それと同様にみつやにとってハルトモという暴風に巻き込まれるのは、いつも通りの自然なことなのだった。