普段は絶対に開かないような大きめで分厚い本や格段に豪奢な地球儀を背に、きれいなスーツを
着込んだ初老の男と同じ様にスーツを着た若い女が、透明なテーブルに両腕を置いて、椅子に
座り込んでいる。
「また、上橋市で行方不明だって?」
「はい、行方不明になったのは上橋市にお住まいの小島三幸さんです、行方不明が発覚したのは一週間前の夕方で、三幸さんのアルバイト先の店長が出勤時間になっても三幸さんが来ないので、彼女の携帯電話に連絡した所、繋がらず、不審に感じた店長が三幸さんと仲の良い同僚にアパートを訪ねさせてみたり、彼女の両親に連絡したりしても、一切の手掛かりすら掴めなかったそうです、そこで、この店長が警察に通報したのは、それから三日後の三月二十一日、つまり昨日です」
最初に初老の男が声をかけると画面が切り替わり、別の壮年の男がてきぱきと答えた。
更に壮年の男は応答を続ける。
「三幸さんのアルバイト先の店長や彼女の友人に取材をしても彼女が姿をくらます理由や一人で向かいそうな場所には見当もつかないそうです、そもそも、三幸さんは真面目な性格でアルバイトに遅刻するようなこともなく、何かトラブルに巻き込まれている様子もなかったそうです」
壮年の男の口調ははきはきしていて、とても聴き易い。
一方の初老の男も、明朗で耳に残る声をしている。彼等は自分達が人に見られるのを意識しながら会話をしていた。何故ならば、彼等の職業はアナウンサーであり、今は生放送の報道番組の収録の真っ最中だからである。
「上橋市で行方不明者が出たのはこれで何人目だっけ?」
初老の男が再び問いかける。
「十三人目です、ちなみに一人目の行方不明になった田中絵麻さんの捜索願いが出されてから既に三ヶ月が過ぎています」
「ふーむ、どうなんっているんでしょうね…これは、あれかな、やっぱりどの事件にも少なからず繋がりがあったりするのかな?」
「その辺りに関しても警察は目下調査中とのことです」
「そうですか、では我々は行方不明になった人の無事を願うしかないわけですね」
初老の男が誠実な面持ちで言うと、壮年の男が頷く。
それで、上橋市在住の小島三幸の行方不明に関するニュースの時間は終わりだった。
初老の男の隅に座っている若い女性のアナウンサーが口を動かすと、画面はまた別のニュースの
VTRが流れ始める。
既に巷では春が訪れている。
コートを着て出歩く者が少数派に段々なりつつあるというのにまだこたつが出しっ放し、という些かだらしない和室に鎮座する一人の老人がその画面を見ながら、訥々とこう呟いた。
「捕らえられたな、これは」
誰もいない部屋の中で老人の声はすぐさま消える。
その禿げた頭が反射する光よりも、老人の目は鋭い光を湛えていた。