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 でこぼこで安定しない地面。一歩、一歩、両脚を進めると、時に小枝が折れて、音が鳴る。

 パキ

自分がキャンドルみたいな枯れ枝を踏み折ったことを気付かないくらいにみつやは考え込んでいる。

 誘拐犯に会うって本気なのかよ。嫌だよ。

 いや、正確に言うと、みつやは恐れていた。

 だいたい無茶苦茶にも程がある。一つの手掛かりもない誘拐犯が、都合良くこの林の中に隠れているわけがないのだ。
更に誘拐犯とやらの存在自体すらそもそも朧である。

 流石に一晩中も林の中を探し回る派目にはならないだろうが、もしかしたら有り得るかもしれない。
みつやが怖いのは誘拐犯じゃない。隣のハルトモだった。

 ちゃんと確かめないと駄目だよな、やっぱり。

 ハルトモの二人の後ろに着いて歩き、既に林のかなり奥に入り込んでしまっている。みつやはやっとのことで決心した。

「なあ、ハル、本気で誘拐犯を捕まえる気なのか?」

 甲高い声を低く押し殺して、みつやは尋ねた。
  みつやは本気である。 仮に春信の答える内容に納得がいかなれば、みつやは一人で家に帰るつもりだった。

「おまえはどう思う? 捕まえられないかな? 俺達」

 三人の真ん中を歩いていた春信は、ゆっくり向き直って言う。

「ちゃんと答えてくれ!」

 春信の問い返しをみつは撥ね付ける。これがみつやの返答だった、

「……なるほどね」

 さして気を悪くした風もなく、撥ね付けられた春信は舌を出す。
 むしろ春信は眉毛を弛ませて、喜んでいるようだった。

「とりあえず本気で捕まえる気はない」

 表情を弛ませたまま春信は言う。

 みつやは春信が笑っているのが少しばかり気掛かりだった。

 そこで、尚、深い質問を重ねようとする。しかし、みつやは口を噤むしかなかった。

「えええええええ、マジかよ、兄ちゃん!」

 朋康が素っ頓狂な声を出して、みつやが質問を考えるより早く、春信に詰め寄ったのだ。

「俺はよ、文句言わねーよ、腹減っても我慢するしさ、やろうぜ!」

 朋康は鼻先がくっ付くくらい顔を近づけて訴えるものの、春信は取り合わない。

「なあ、みつや、おまえもそう思っているよな?」

 今度はみつやを相手に朋康は訴える。

「思ってねーよ!」

 それを短く痛烈にみつやは否定した。

 すると、朋康は背中に冷や水をかけられたみたいに、一瞬、身体を震わせた。

案外、打たれ弱い奴なのである。

「んだよ、良いじゃねえかよ、英雄だぜ、俺等、誘拐犯を捕まえたら!」

 ぶつぶつと朋康は言う。

みつやはいちいち取り合わなかった。英雄なんかに興味はないのだ。

「まぁ適当に探したら帰るつもりだから安心しろよ」

 朋康の文句が尽きた後を引き継いで、春信は緩やかに言った。

 依然としてみつやは春信の答えに納得していない。どうにか春信からもっと言葉を引き出したいが、適わぬことだった。
それ以上の言い様をみつやは思い付けなかったのである。

「じゃあ先を急ぐか? だいたい中心まで行ったら、そこから手分けして探すからな」

 春信はきっぱり言い捨てると、我先に歩き出す。

 もっと言葉があればいいのに。

みつやは軽く下唇を噛んだ。春信を相手にするといつもこうだ。簡単に煙に巻かれてしまう。
もしくは見事に踊らされてしまう。
少し悔しい。それは、みつや自身ですら無自覚な衝動だった。

 三人はぞろぞろと歩調を落とさずに移動する、

 林の中心とは三人の中で取り決められたある地点のことだった。堅苦しく、林の中を歩き回って、定めた場所ではない。
ダンボール一杯に入ったアダルトDVDとほぼ同数の露出度の高い人形が放置された場所。そこが三人にとっての林の中心である。

「さて、バラけて探すとするが、みつや、携帯は持って来てるよな?」」

 散乱している際どい衣装の人形を意に介さずに春信が言う。

 大量の猥褻物も三人にとっては最早見慣れたものだった。
 最初のうちこそ喜びはしたものの、今となっては地面に転がる枯れ木と同列である。

「ああ」

 春信の質問をみつやは即答した。

 小学生にとっても携帯電話は既に必需品なのだ。

「OK、なら時間を決めよう、今がだいたい十五時半だ、そうだな……精々、十七時半まで探せば良いんじゃないか?」

 例の独特の思案顔をつくって、春信は言う。

「あぁ、それならギリギリ」

 春信の判断をみつやは二の足を踏みつつも受け入れた。

 笑顔の春信は信用出来ない。しかし、この思案顔の春信ならば大丈夫。
ぼんやりとだがみつやの感覚がそう告げた。安直でも信じることにした。

「えぇ! もっと探そうぜ、夜の方がいそうじゃん、誘拐犯ってよ」

 朋康が大きく開いた口をお間抜けに尖らせる。

その姿は三歩進んだら忘れる鶏みたいだった。

「だったら、おまえ一人で探してろ、俺は帰るからな!」

 情け容赦なく春信は朋康を切り捨てる。

「ちぇ、つまらねーの!」

 朋康は不平を短く洩らすだけで、それ以上はなにも言わなかった。遣る方なくも、同意したらしい。

「じゃあ俺はあっちを探す、朋康はそっち、みつやはこっちだ、文句はないな?」

 それぞれの方向を指差しながら、春信が緩慢に采配を振るう。

 真剣だ。春信はだらだら林の中を歩き回る気はない。効率良く、林の中をしらみつぶしにしようとしている。

 面倒なことにならなきゃいいけど。

 みつやはハルトモの二人も気付く程、堂々と溜息を吐く。

「なにか手掛かりになしそうな物を見つけたり、万が一にも誘拐犯を見つけたりしたら、すぐに連絡すること、
絶対に戦うなよ、特に朋康」

「俺ならば楽勝だぜ!」

 みつやの溜息を無視して、ハルトモの二人は会話を進める。

なんてことはない。あくまでいつも通りである。

みつやの人生にとって決定的な存在と会うのは、このすぐ後だ。